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節分には何を食べる? ところ変われば品変わる! 個性豊かな行事食

   

「節分といえば豆まき!」というのは、もはや古いのだろうか。一家の家長が家内安全を願って「鬼は外! 福は内!」と盛大に豆をまく姿は、年々見られなくなっている。特に、小さな子どものいない家庭や、外に豆をまけない集合住宅地などではより顕著だ。では、このまま節分行事は廃れてしまうのか、といえばそうでもない。大々的に節分祭を行う地域もあれば、近所総出でこしらえる行事食の文化も根強く残っており、さらには進化する新興グルメまで、節分にまつわる「食」は今も健在だ。


 

□恵方巻き

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豆まきに代わる新興勢力といえば「恵方巻き」。関西地方のみに伝わっていた風習が、いまや全国レベルで浸透してきている。これは、その年の吉方(恵方)に向かい、七福神にちなんだ七種類の具材を入れた巻き寿司を、切らずに丸かぶりして食べる、というもので、「福を巻き込み」「縁を切らない」という意味が込められている。さらに、願いごとをしながら無言で食べきるというルールが定めらるなど、イベント性に富んだ内容だ。

これなら、住宅環境も関係なければ、散らかった豆の後片付けもいらず、老若男女問わず手軽に楽しめる。さらに、太巻きを切らずにかぶりつく、という本来なら行儀の悪い行為が、年に一度だけ許されるというのも、ある種のカリギュラ効果(ダメだと言われるとやりたくなる心理)で、大の大人がハマってしまう要因にもなっているのだろう。豆まきという家庭における節分行事の主役の座を、恵方巻きに取って代わられる日も、そう遠くないかもしれない。

※恵方巻き
江戸時代末期の大阪で、商売繁盛を祈願する風習として始められたとされているが、正確な起源は不明。一時期は廃れたものの、1970年代後半に大阪海苔問屋協同組合がイベントとして復活させ、関西地方では一定の知名度をもつ行事になった。その後、2000年代初頭からコンビニやスーパーで大々的に宣伝したことで、急速に全国へと広まった。

 

□けんちん汁

 

関東地方の一部に伝わる節分の行事食といえば、けんちん汁。大根やニンジンなどの根野菜と、くずした豆腐の入った汁物で、節分に限らず、冬の祭りなど、寒い日に体を内側から温める汁物としてふるまわれていた。

その発祥は、鎌倉の建長寺だといわれている。寺の法要で出す精進料理の豆腐がくずれてしまった際、急場しのぎとして野菜と一緒に煮込み、具沢山の汁物として出したところ、評判になったというものだ。そのため、今でもけんちん汁の豆腐は、あえて崩して入れる。包丁できれいにカットする家庭もあるが、多少美観は損なわれたとしても、崩れているのが本来の伝統的な姿だというわけだ。さらに、味が染みやすいという利点もある。

よく豚汁との違いが分からない、という人がいるが、けんちん汁は精進料理なので肉などの動物性タンパクは使わない。そして味付けには「味噌」ではなく「醤油」を使う。風味を出すために、ごま油で野菜を炒めてから煮るのがポイントだ。

<けんちん汁の材料>

・豆腐(水切りしてから手で粗くつぶす)
・ごぼう(ささがき)
・にんじん(イチョウ切り)
・大根(イチョウ切り)
・里芋(ぬめりが嫌な場合は下ゆでする)
・ねぎ
・こんにゃく(一口大にちぎり、下ゆでしてアクをぬく)
・油揚げ(熱湯をかけて油抜きをして細切りに)
・キノコ類
・ごま油

豆腐はクッキングペーパーなどで軽く水を切っておく。野菜をごま油で軽く炒めてだし汁を加え、アクを取り除きながらやわらかくなるまでゆっくり煮込む。最後に豆腐を加え、酒、醤油、塩で味を整える。

□イワシ料理

関西地方の一部では、節分の折にはイワシの頭をヒイラギの枝に差し、玄関に飾る風習がある。これはイワシを焼いたときの煙と臭いによって、悪鬼が退散するという厄除けの飾りで、食卓にはめざしや塩焼きなどのイワシ料理が上る。
刺身は言うに及ばず、煮て良し、焼いて良し、揚げて良しのオールマイティなイワシは、専門店ができるほどファンは多い。最近では漁獲量が減り、大衆魚から高級魚になったともいわれるだけに、魔除けというポジションは少々気の毒な気もする。

□しもつかれ

「しもつかれ」は、鮭の頭、煎った大豆、鬼おろし(粗い大根おろし)にした大根とニンジンなどを、酒粕とともに煮込んだ北関東地域の郷土料理。地域によって「すみつかれ」や「しみつかれ」とも呼ばれている。温かいものや冷えたものをそのまま、あるいはご飯にかけて食べることもある。
初めて食べる人は、箸をつけるのをためらうビジュアルだが、その最初のハードルを乗り越えさえすればハマる人も多い。ちなみに、栃木県内ではスーパーで出来合いの総菜として売られているほどメジャーなものである。

□こんにゃく料理

食物繊維が豊富なこんにゃくは、胃や腸の中をきれいにする働きがある。このことから「砂おろし」や「砂はらい」と呼ばれ(※「体内の不要なもの=砂」を外に出すの意)、新たな年を迎えるための「体の大掃除」として、大晦日や節分にこんにゃくを食べる風習が各地に残っている。なかでも香川など四国地方に多く受け継がれ、白和えや煮物、酢こんにゃくなどが食卓に上る。こんにゃくといえば群馬が有名だが、香川の山間地域でもこんにゃくいもが栽培されており、なかでもそばを栽培している地域では、そばがらを焼いて作った灰汁が、こんにゃく作りに利用されているという。

□おばいけ

「おばいけ」とは、クジラの尾びれと身の間の部分を薄くスライスし、刺身や湯引きにしたものを酢みそをつけて食べる、山口の郷土料理。独特のシャキシャキとした食感がある。これを節分に食べると、1年を無病息災に過ごせるといわれている。大きなものを食べると大きく年をとることができる、といういわれから、鯨は縁起物として古くから食されてきたという。クジラ1頭を余すことなく使い切る、クジラの街ならではの行事食だ。

□ざくざく

「ざくざく」は、その名の通り、一口大にザクザクと切った大根、人参、ごぼう、里芋、こんにゃくなどを、煮干しの出汁で煮込み、醤油で味を整えた会津地方の郷土料理。節分のほか、大晦日や正月などに食べらている。よく似たものに「こづゆ」という料理があるが、こちらは出汁に「貝柱」を使い、具材は「ざくざく」よりも小さめ。もともとは武家料理で、正月や冠婚葬祭に欠かせないおもてなし料理の1つであった。この「こづゆ」を、庶民でも食べられるようアレンジしたのが「ざくざく」だといわれているが、実際のところはあいまいで、地域によってその内容は異なる。

□福茶

福茶は、昆布・梅干し・黒豆などにお湯を注いでつくる縁起物のお茶。昆布(=喜ぶ)、梅(=松竹梅)、豆(=まめまめしく働く)など、それぞれ意味が込められており、正月や節分などに邪気を祓い福を呼ぶとされている。熱湯の代わりに緑茶やほうじ茶でつくる地方や、焼いた梅干し、山椒、砂糖など、地域によって入れるものは異なる。

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